“ジャズプレーヤーと山”??前代未聞のこの題名に多くの方が「なにを考えているんだ、この人は?」と怪訝な顔をされるに違いない。勿論ここで登山の好きなジャズプレーヤーを特集するつもりはサラサラ無い。それどころか、私はいまだかって登山の好きなジャズメンにあったこともないし、多分皆無だと思う。それはそうだろう。チャーリー・パーカーやレスター・ヤングがサックスの変わりに重いリュックをかついで山に登る姿は全く想像できないし、チャーリー・ミンガスがリュックを背負って山に登ればおそらく10分でギブアップすること間違いなし。普段威張り散らしているミンガスがへとへとになって、「ミツオさん、お願いだから水を飲ませてください」と懇願する顔を見てみたいとも思うが、、、。
ところで以前、幻のトランペッター、トニー・フルッセラのCDを出した時、その解説の中でフルッセラを山で例えて、新潟県の雨飾山、又は北海道のトムラウシと書いたことがある。決して高くは無いが個性的で、どこか懐かしい、遥かな印象があったのでそのように形容をしてみたのだが、山好きの方には賛同していただけたものか、、、。さて私は横浜の平沼高校へ入学して直ぐ、熱心な山岳部員に押しきられていやいや山岳部員にさせられた。同期の部員の中では飛びぬけて弱く、又ガッツの無い部員と定評があったのだが、それがどういうわけか部員の多くが山登りから遠ざかってしまった今、一番ダメ部員だった私が今でも時間をみつけて山に登っているのだから面白いものだ。
さて本題に入ろうか。ものを例えで言い表すのはなかなか難しいことだが、ものの本質をとらえて言い当てるのは、楽しいことでもあり勉強にもなる。そこで前述のトニー・フルッセラの続きをやってみたい。尤も山に興味の無い人にはなんの意味も無いことだろうが、私にとっては大問題である。ここでは私の好きなジャズプレーヤーを、深田久弥の“日本百名山”に登場する山であらわしていきたいが、断っておくがプレーヤーの偉大さと山の標高は必ずしも比例しないから念のため、あくまでイメージとしてである。
私の大好きな山は、北アルプスでは剣岳、鹿島槍ヶ岳、南アルプスでは甲斐駒ケ岳、仙丈岳、北岳、そして塩見岳、アルプス以外では利尻岳、鳥海山、尾瀬の至仏山、火打山、八ヶ岳、白山といったところか。勿論ほかにも好きな山はいくつもあるが、これは列挙していくときりがない。さて名峰剣はその厳しい姿から、レニー・トリスターノ、あるいは1948年から1952,3年までのリー・コニッツといったところか。奥大日岳辺りから見た剣岳は実に見ごたえがある。鹿島槍ヶ岳は私の“特別お気に入り”の3山の一つだが、これにはトミー・フラナガン、ジーン・ディノヴィ、アル・ヘイグといったジャズでのお気に入りピアニストをあてがいたい。双耳峰を持つこの山の美しさ、気品の高さには上記の3人がぴったりだ。ホーン奏者でいえばアート・ファーマーも良いかもしれない。北海道の利尻島にある利尻岳は海岸線から一直線にその頂へスカイラインをひいていて、離れた位置から見ると島と山が一体のように見える実に格好の良い山。その尖った姿と、なかなか頂上の見えぬ(ガスがかかりやすい)イメージから1940年代中期から後期にかけてのアレン・イーガーを思わせる。イーガーのエキセントリックな性格がこの孤高の山の姿に一致する。そして東北の名峰、鳥海山は少しスケールの点で見劣りするがこちらも利尻岳に似て格好が良い。これはウォーン・マーシュ、ロニー・ボール、サル・モスカといったトリスターノ派か。一方美しい尾瀬ヶ原から見る至仏山は女性的な姿で、いつもホッとさせられる。これはビル・パーキンスといってみようか。レスター・ヤングに通じるたゆたうようなプレーは雪を残した至仏にぴったりだ。ところでマイルス・ディビスをどの山に例えればよいだろう。私はどうしてもマイルスをトランペッターとして超一流として評価できないのだが(ジャズ史上最もユニークなトランペッターの一人として評価している)、それでも50年代に残したバラードの名演、It Never
Entered My MindやMy Funny Valentine、そしてWhen I Fall In Love、また60年代のアップテンポの名演のいくつかを聴いて、、、深い森を持つ北八つ、荒々しい顔を見せる南八つの二面性と、そしてほぼ日本の中央に聳える八ヶ岳あたりか?尾根筋に多くの山小屋をもち、沢山の登山者が訪れるこの山は、人気者マイルスに通じるところがある。かなり俗化されつつあるあたりも。そこへゆくとレスター・ヤングは疑いなく日本第二の高峰、北岳だろう。深田久弥も言っているようにこの山には哲人の趣きがあり、特に甲斐駒ケ岳や栗沢山辺りから見る北岳は颯爽としてそのピラミダルな姿を誇っている。この姿に私は中央ジャズシーンにうってでた当時の、レスターの素晴らしさにイメージを重ねる。さて私が大好きな甲斐駒ケ岳、この山の写真を撮るには早川尾根西端の栗沢山がベストと思っているのだが、怪奇な摩利支天を従えたこの山、深田久弥をして「日本10名山を選べと言われてもこの山を落とさないだろう」と言わしめたほど見栄えのする山だ。私はこの山を見るたび<山の団十郎>と形容しているが、これをジャズプレーヤーに例えればハンサムなヤン・ラングレン(少し小粒か?)または若い頃のアート・ペッパーだろうか?韮崎や小淵沢あたりから望む甲斐駒はワーデル・グレイの趣きもある。また南アルプス北部の名峰、仙丈岳は3000mの頂にも多くの花を宿す、<南アルプスの女王>と言われる素晴らしい山だが、近年北沢峠から容易に登ることも出来て人気がある。その親しみ易さからクリフォード・ブラウンとした。三つの大きなカールを抱いたその山容は変化があり、バラードでの情感豊かな、そしてミディアムテンポでのスウィング感、またアップテンポでのスリル溢れる演奏を考えると、これはやはりブラウニーである。一方私の大好きなハービー・スチュワードは北アルプスの黒部五郎岳。山深く、慎ましく、そして品の良い山容は控えめなスチュワードにぴったりだ。それではゲッツはどうなる??これは人気の高さからも白馬岳かな??怪人と昔いわれたローランド・カークは海外に眼を向けて怪峰ジャヌー、チャーリー・パーカーはこれもヒマラヤのダウラギリ、マカルーあたり、それでは世界最高峰のエヴェレストはどうだ??と迫られればこれは間違いなくデューク・エリントンをおいて他にない。デュークは実に偉大だ。ついでにベイシーは、、、これは温かい人柄で山形県の月山。山容もどっしりとしてやはり月山としよう。ここからしばらく汽車にゆられて北をめざせば一関もあることだし、、、。それにしても、、、あーあ、疲れた!!!このへんで一休みじゃ。でも山に登るときと同じく、心地よく疲れた。<山のあなたの空遠くスウィングありしと人はいう>詠み人知らず。 |