MY FAVORITE SONGS
- その2 -
WAHT'S NEW
ジャズを聴き始めた頃は、ジャズ喫茶などでバラードがかかると途端に退屈になってアクビが出たものだった。逆にいまでは意味のない、ただ音量の大きなブローがかかりだすと、レコード針をあげたくなる。これは多分私の年齢のせいで、好みが変わってきたものだと思うが、そのせいか、最近ではバラードの名手の演奏がスピーカーから流れることが多くなってきた。たとえばJohnny Hodges、Ben Webster、Charlie Parker(私はパーカーをジャズ史上最高のバラード奏者の一人と考えている)、Stan Getz、Art Farmer、Lester Young、Duke Jordanなどの名が頭に浮かんでくる。


さて白人ベース奏者、ボブ・ハガードが作曲したWhat's Newは私の最も好きなバラードのひとつ。1938年生まれのこの曲はいかにも都会的な雰囲気のする、さりげないメロディーラインと、それに加えてうっとりするような内容の歌詞。偶然に(多分、)出会った昔の恋人に<最近はいかが?あのときのロマンスはどうなった?>と胸のときめきを感じながら問いかけて、最後に<やっぱりいまでも貴方を愛している>と本音をもらすこの気持ちこれは絶対女性の曲といってよいだろう。


ところで私の本業も昔は景気がよくて、税務署の突然の調査ほど怖く、びっくりさせるものは無かったが、今では調査する必要が全く無いような景気だ。それに代わって、なにがびっくりするかといって、What’s Newではないが偶然街で昔つきあっていた彼女にバッタリ行き逢うときなど、ほんとにドキドキするものだ。突然税務調査の話題が飛び出して、この名曲のムードをブチ壊してしまったが・・・。


What’s Newの名演、名唱は多いが、特に私の好きな演奏はStan GetzがAl Haigのピアノを伴奏に、それこそ歌うがごときに吹いたPrestige時代の名演は孤島に持って生きたい演奏のひとつ。さりげなく、しかし内に潜む心情を見事に表現したOne And Only の演奏で、数多いGetzのバラードの名演の中でも超お気に入りのもの。また1959年、Getzがヨーロッパに住んでいた頃、デンマークのナクスコフという田舎町で残した演奏も素晴らしく、何回聞いても聞き飽きない(Olufsen DOCD6011 Stan Getz In Denmark 1958-59。)


その他の器楽演奏では、Art Pepper の録音も忘れがたい。一般的には1950年代中期コンテンポラリーに残したカルテットの演奏が人気のようだが、それよりはるかに魅力的なのは、1954年のDiscovery原盤の演奏。Martin社のアルトサックスを使っていた当時のPepperは素晴らしく、前述のWhat's Newはこの時代の演奏だが、それに先立つクインテット(テナーはJack Montrose)は倍も素晴らしく、よりエモーショナル、かつイマジネーテイブ、青春の哀歓が強く感じられて忘れがたい。オリジナルテークは#3のようだが、#2も負けず劣らず魅力的だ。この録音はジャケットもひどいし、音もコンテンポラリーの名録音に比べて劣るのは間違いない。また日本人ジャズファンは、総じてリズム プラス ワンホーンのカルテットを好むのでほとんどのファンの関心はコンテンポラリー盤に集中してしまうのはやむをえないが、モントローズの繊細なオブリガードも素敵で、今一度Conn社の楽器を使っていた、より若かった頃のPepperのプレイに注目してもらいたいものだ。


Pepperが記録した同じくDiscoveryの初リーダー作(Brown Gold、These Foolish Things等、1952年録音)はどういうわけか期待に反していまひとつ精彩に欠けるが(たぶんドラッグのため)、ジャック モントローズと共演したこの1954年8月25日の録音はペッパーが残したベストのリーダーアルバムだと信じて疑わない。


さてこの名曲のボーカルバージョンで好きなのは、こちらは月並みだが、ヘレン・メリルとクリフォード・ブラウンの演奏をあげたい。有名な“You'd Be So Nice To Come Home To”を含むこの作品は日本では最も良く売れた、そして親しまれているジャズボーカル作品だと思うが、これはクリフォード・ブラウンの参加と、クインシー・ジョーンズの抜群の(特にYou’d Be So Nice…)編曲の為だが、なんと言ってもメリル本人の歌唱が素晴らしい。特に私が好きで、また素晴らしいと思っているのが、What’s New, Yesterdays,そしてDon't Explainといったバラードである。これこそ真の意味でのジャズボーカルだといつも思っている。


最近わが国では、吉本興業顔負けのおちゃらけたおばさんや、なにか勘違いしているのではないかと思うほど品のないオネイチャマが人気のようだが、人それぞれ好みがあるとはいえ、納得できない。歌詞を大事に、そして美しいメロデイーを尊重してストレートに、素直に歌いながら、それで人を感動させる歌い方ができないものだろうか?尤もこれが一番難しいことなのだろうから、ポッと出の歌手などにはとても無理なお話なのかもね。


さてメリルのWhat’s New。情感こめて語りかけてくるような歌い口・・・。このボーカルを聞いていると、春浅いセントラルパークあたり(いったことはないが・・・)の公園で、今でも忘れられない昔の恋人との偶然の出逢いの、胸のときめきをかんじさせるロマンチックな情景をおもいおこさせる。クリフォード・ブラウンのトランペットも原曲のムードをこわさないが、それ以上にメリルは素晴らしい歌詞をまるで自分の感情の赴くままに表現していていじらしい。7,8年前にメリルと話す機会があったので、その素晴らしさを伝え、人気の“You’d Be So Nice”よりずっと、ずっと良いのでは?と言ったところ、彼女も嬉しそうな顔で、“私も全く同じ意見よ”と答えてくれたときは嬉しかった。また彼女は、“リンダ・ロンシュタットのヒットは、私のいただきよ。”とも言っていた。


私はいつも、メリルのボーカルを、“はんなり”という言葉で表現しているが、このWhat’s Newをふくめて“Yesterdays”、“Don’t Explain”といった究極(大袈裟?)の解釈には、ただ“はんなり”などといった表現ではおさまらない、ある種の“凄み”といったものをかんじてならない。実際彼女と会って話しをしていても、決して淑女といった雰囲気は感じられず、したたかさを感じた。だとすると、往年の名唱は彼女の若さがそれを被っていた為のものだったのだろうか?ここまで書いてきて気がついた。Stan GetzとHelen Merillに共通する音楽的な何かを・・・。つくずくジャズという音楽の不思議さと、またその素晴らしさを。What’s New.この名曲はジャズメンが作った最高のジャズバラードのひとつである。